そもそも、売春地帯というのは、どのような場所なのか?

そもそも、売春地帯というのは、どのような場所なのか?

売春という行為は秘められた個人のプライベートな行為である。セックスを売って、それをカネにする。

それは反社会的であり、背徳であり、堕落でもあるので、誰も大きな声で「今から売春する」と宣言してするものではない。闇の中で、知られないように行われる。

ところで、「売春地帯」という言葉は、この秘められているはずの売春行為に「地帯」というエリアを示す単語が付く。

ずっと昔からこの売春地帯に沈没して、売春地帯の変遷を見つめてきた人間からすると、売春地帯という言葉はごく自然なものである。

ところが、売春地帯を見たことも聞いたこともなく、ましてそこで何が行われているのか知らない人間からすると、それは非常に奇異に感じる言葉なのだと言う。

とくに女性からみると、そもそも「売春地帯」の存在すらも知らなかったところにいきなり「売春地帯」という言葉が出てくると、それ自体が実感のない、空想の産物のような言葉に見えるようだ。

売春は忌むべき行為として禁止されている

そこで、今回は特別に、売春地帯というのはいったいどのような場所なのかというのを、過去に書いた会員制の記事の紹介も合わせて解説してみたい。

売春地帯とは、その言葉の通り、売春が大っぴらに行われている場所である。

どこの国でも売春が大っぴらに行われている場所はあるのだが、それはだいたいが自然発生的にできたものが、いつしか世間に黙認されて続いている。

もちろん、世界中で売春は忌むべき行為として禁止されている。建前ではそうだ。

にも関わらず、男たちは売春する女性を切望したので、売春行為そのものはなくならなかった。

言わば売春は社会にとって必要悪として、古代から現在に至るまで、ずっとそこに存在し続けて来た。(売春女性が誇示するのは肉体。踊りで誇示されるのも肉体。

イスラム国家ですら売春は存在する。アラブ女性ですらも売春するのだ。(執拗に「マネー!」と要求。路上売春の生々しい現場の光景

アフガニスタンでも、少女をカネで買って妻にして、売春させてカネを稼ぐというやり方をして売春が横行している。(アフガンの15歳の花嫁。売春を強制されるが拒否して拷問に

しかし、男たちは一方で女性を「貞淑であるように」と強制してきた。矛盾しているが、それが事実だ。

・男は、女性は貞淑であるべきだと規定した。
・しかし、一方で堕落した女性を求めていた。

実はこの矛盾が、「売春地帯」という場所が必要になった重大な要素であることに気がついている人は少ない。

どういうことなのかというと、この矛盾によって、男は「手を出していい女性と、手を出してはいけない女性」の2つを切り分けなければならなくなったのである。

絶対に間違えてはならない。手を出してはならない女性に手を出すと、それこそ命の危険すらもある。

それで、男たちはどうしたのか。

簡単だ。売春ビジネスが大っぴらにできる「場所」を作って、その場所にいる女性ならば、誰にでも手を出して構わないという決まりにしたのである。

それが「売春地帯」なのである。

日本もかつてはそうだった。素人の女性に手を出すことは、絶対に許されなかったのだ。

だから、戦前は「遊郭」という名の売春地帯があり、戦後は赤線地帯という名の売春地帯があった。

1958年に売春禁止法が施行されてから、日本では売春地帯というあからさまな言い方がはばかれるようになり、それは歓楽街だとか風俗街という言葉に丸められた。

男は、女性は貞淑であるべきだと規定した。しかし、一方で堕落した女性を求めていた。その矛盾が売春地帯を生み出した。

問題は、この売春地帯で働いている女性の境遇だ

売春地帯というのは、英語ではこのように言われている。

“Red-light district”

直訳すると「赤いライトの地区」となる。なぜ、海外では「売春地帯=赤いライトの地区」なのか。それは、世界中どこでも売春は自然と「赤いライト」の下で行われているからである。

なぜ、赤いライトになるのかというのは、以前にもいくつか書いたことがあった。

皮膚を這い回る有害な虫と、売春地帯のレッドライトの罠
シミ、シワ、年齢。女性の欠点を消し去る、売春地帯の方法

オランダの飾り窓でも、インドの売春ストリートでも、タイのパタヤでも、シンガポールのゲイランでも、売春地帯という売春地帯は、見事なまでに「真っ赤」だ。

こういったところが売春女性たちが働いている。

問題は、この売春地帯で働いている女性の境遇だ。売春は非合法なのに、必要悪としてそこに存在するので、そこで働く女性には生い立ちからして問題がある場合が多い。

売春地帯で売春に関わる女性は、そのほとんどが貧困を背景にしている。

生まれながら貧困であったり、生まれながらにして差別されていた女性であったり、何らかの事情で母子家庭になって社会から見捨てられた女性が、売春地帯に堕ちてくる。

「売春地帯をさまよい歩いた日々」の中で見てきた女性たちは、ほぼすべてがそんな女性たちだった。(売春地帯を、さまよい歩いた日々

実は、それだけではなく、もっと深刻な問題がある。それは、人身売買されたり、誘拐されたり、騙されたりして無理やり働かされている女性も多いことだ。

私も、インド売春地帯で、誘拐されて売春地帯に放り込まれ、精神が壊れてしまった女性を目にしたこともある。

実は、インドは世界でも最悪クラスの人身売買国家であり、女性が続々と売春地帯に放り込まれているような地獄のような世界だった。

人身売買を持ちかけられたときもあった。「日本の女性を売ってくれ」というのである。(「日本の女を売ってくれ」人身売買することを薦められた日

見事なまでに、けばけばしいレッド・ライト。外国人が売春地帯のことを”Red-light district”というのも納得できるはずだ。

もっと深刻な問題は、少女売春もそこにあること

もっと深刻な問題もある。未成年の女の子もしばしば売春地帯で働かされていることもある。

フィリピンでは、今でもそういった少女売春が裏で行われている。(ロリコン犯罪(1)子供に性欲を抱く犯罪者がアジアにいる

2000年から2003年までの間では、カンボジアでもそういった少女売春を目的にした男たちが続々と逮捕されていた。(ロリコン犯罪(2)逮捕者が続出していたカンボジアの暗部

タイではかつては「冷気茶室」と呼ばれる場末の売春宿がヤワラー(中華街)にあった。(冷気茶室。男の天国、女の地獄と呼ばれた、バンコクの魔窟

この冷気茶室が少女売春の温床だったのだが、これが現在ではほぼ壊滅した。

あとは、たまにどこかで未成年売春が摘発されるくらいで残りはチェンマイ・チェンライ・メーサイと、ミャンマーのタチレクといった地域のアンダーグラウンドに消えて行った。

フィリピンでもマルコス時代は少女売春がほとんど放置されていたが、今では問題の深刻さを社会全体が認識して、かなり厳しくなった。

しかし、依然として貧困が解消できていないので、子供を売る親が後を絶たない。

最近も、母親が3人の娘を売り飛ばそうとしているのが阻止された事件があった。(性奴隷にされていく少女たち。それは「過去の話」ではない

ハイチでは2010年に首都すらも壊滅する巨大地震があったが、それから3年経って、世界はハイチに関心を失った。

しかし、この無関心の中で、少女が闇で売り飛ばされている事件が数限りなく起きている。その多くは、最後にはどこかの売春地帯に堕ちて行くことになると予測されている。

子供売買ビジネス。ハイチでもあった子供売買の邪悪な手口
ハイチ奴隷児童。見えないところで奴隷化されている子供
ハイチの隣国、ドミニカはアメリカ人の売春島になっている

こういった問題が売春地帯を軸にして闇の中で起きている。だから、売春地帯は非常にダーティーで許容できない社会の暗部として、表社会からは嫌悪される。

それが、「売春地帯を消滅させよ」という声になって、実際に叩き潰された売春地帯もある。

たとえば、カンボジアのスワイパーは少女売春のメッカだったが、人権団体の激しい抗議によってカンボジア政府はそれを強制的に閉鎖させた。(スワイパー。プノンペン郊外の売春村『スワイパー』のこと

他に、いろんな思惑で壊滅させられた売春地帯としては、バングラデシュのナラヤンゴンジが有名だった。

この売春地帯が1999年に崩壊する経緯については、こちらに詳しく書いている。

巨大売春地帯の崩壊(1)。売春は物乞いと同じカテゴリー
巨大売春地帯の崩壊(2)。爛熟すれば破壊されるのが運命

売春地帯は非合法地帯である。政府がその気になればいつでも破壊される「はかない場所」だ。

性病・エイズの蔓延も、社会を激震させている

これほどまでの問題を抱えながら、それでも依然として消滅しないのが、売春地帯という存在だ。叩き潰しても叩き潰しても、それは決して社会からなくならない。

売春ビジネスは、世の中のどんな卓越した反対運動家よりも寿命が長い。また、世の中のどんな強権を持った政府よりも寿命が長い。

潰しても、壊しても、何をどのようにしても、必ず売春ビジネスは息を吹き返して育っていく。雑草と同じで、踏んでも踏んでも生き返るのである。

どんなに表社会から嫌われても、それは廃れない。

あまりにも売春地帯の生命力が強靱なので、売春地帯そのものを禁止するのではなく、政府がゾーニング(区画管理)して管理しようとする政府もある。

オランダの飾り窓も、オランダ政府が公認している売春地帯である。

アジアでは、シンガポール政府がそういった政府のひとつとなっている。ゲイランはシンガポールで公認された売春地帯である。

ゲイラン・ストリート。シンガポール政府が用意した罪の街
シンガポールの赤線地帯「ゲイラン」。政府公認の売春地帯

政府が売春地帯を管理することによって、人身売買や未成年就労が防止できるが、もうひとつ大きな利点は性病・エイズを管理することができることであると言われている。

実際は意味がないのだが、少なくとも管理することによって性病の蔓延は防げると政府は思っているようだ。

売春地帯が表社会から嫌われる原因のひとつには、この売春地帯が性病やエイズを撒き散らす汚染地帯になっていることが挙げられる。

不特定多数のセックスが渦巻くのだから、どうしても性病やエイズは避けられないのである。今でもこれらは非常に深刻な問題になっている。(カマティプラ(1)。診断女性の10人に6人がエイズ

エイズに罹れば売春を止めると考えるのは普通の人の感覚だが、売春女性の多くはエイズだろうが性病だろうが、そのまま売春ビジネスを継続する。

売春ビジネスをやめると生活ができなくなってしまうということもあるが、中には自分にエイズをうつした男たちに復讐するため、わざと復讐売春する女性もいる。

売春地帯で性病・エイズが蔓延するのは避けられない。

悲哀を生きる人たちも内在しているのが売春地帯

こういった深刻な問題以外にも、売春地帯はその享楽的で、退廃的な雰囲気から、アルコールやドラッグや違法賭博も蔓延しやすい土壌にあることも問題になっている。

売春地帯に巣食う男たちは快楽至上主義であり、売春地帯ではそこにあるすべての快楽を貪り食らう。破綻してしまったり、死んでしまうまで快楽一途に生きることが多い。

要するに、売春地帯とは不幸な女性が堕ちる場所であると共に、男を不幸に堕とす場所でもある。(破滅。欲望の街で死んでいった男たちの怨念が、身に染みた

国問わず、多くの男たちが破滅し、死んでいく。そういった男たちにも関心を持ったこともある。(タイで追い詰められ、飛び降り自殺していく外国人の男たち

快楽に溺れないで、売春地帯をうまく利用している男たちもいるが、期せずして溺れて暴走していく男たちもいる。

これは、女性の側を見ても同じだ。

売春地帯で、ストイックにうまく泳ぎ切る女性もいる。しかし、中には売春地帯の享楽的な雰囲気に飲まれてしまって、そのまま一直線にアルコール依存やドラッグ依存になって身を持ち崩す女性も多い。

若い時はそれで良くても、少し年齢が行くとだんだん男たちが離れていき、それでも生活のために売春地帯にしがみつかなければならない女性もいる。

もう売春地帯が彼女の人生になっており、そこから抜けることができないのである。

こういった悲哀を生きる人たちも内在しているのが売春地帯という場所である。

売春地帯は、他にもいろいろな顔を持っている。しかし、言えるのは、売春地帯のどの顔を見ても、そこには悪徳が背景にあるということである。

世の中は、あえて知らない方がいい知識もたくさんあるという。売春地帯という世界も「知らない方が幸せ」な世界なのかもしれない。

それでも、あなたは知りたいだろうか?

ブラックアジア・カンボジア編
『ブラックアジア・カンボジア編 売春地帯をさまよい歩いた日々(鈴木 傾城)』

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