「割れ窓理論」は、様々なところで応用される重要な経験則

「割れ窓理論」は、様々なところで応用される重要な経験則

1982年。ジョージ・ケリングというハーバード大学研究員がひとつの理論を発表した。

それは、「割れ窓理論」という奇妙な名前の付いたものだったが、この理論は犯罪防止の現場に応用され、多大な効果を発揮して、現在においても強い影響力を放つ異質の理論となった。

街で、割れた窓の建物があったとする。それはいつまで経っても放置されたままだ。そうすると、犯罪者はそこは管理されていない場所なのだと感じるようになる。

そうすると、そこに落書きが描かれ、ゴミが捨てられ、それが積み上げられるようになり、地域のモラルがどんどん低下していく。そして、それが犯罪者を引き寄せて、最終的に凶悪犯罪が発生する。

割れた窓ひとつを放置することが、凶悪犯罪を招き寄せる結果となったということだ。

逆に言えば、割れた窓をきちんと片付けて修繕すれば、犯罪はどんどん減っていくということでもある。だから、「割れ窓理論」は犯罪防止のための重要な理論になって効果を上げるようになっていった。

「割れた窓」というのは、ひとつの象徴だ

「割れた窓」というのは、ひとつの象徴である。何の象徴なのかというと、「管理が行き届いていない何か」の象徴だ。

管理が行き届いていない「何か」があると、それが呼び水になって、次から次へと悪いものがやって来るのだ。

日本でも、水質汚濁が著しい河川の流域ほど、犯罪が多発するというデータが出されている。水質汚濁が著しい河川というのは、最初のゴミを放置していたのだろう。

そうすると、それが呼び水になって、大量のゴミが捨てられるようになり、やがては地域住民がその河川流域に愛着を感じなくなり、「ここは管理されていない」と感じた犯罪者がやってきて、やがて犯罪が起きる。

最初のゴミを片付けなかったために、最終的に地域が破壊されてしまうのである。

私は東南アジアや南アジア、あるいは中米のスラムをさまよってきたが、スラムはとても危険な場所で、犯罪者たちがたむろしていることが多い。

思い返せば、こういった地域はまさにゴミに囲まれていて、誰もがそれに関心を払っていなかった。

途上国の都市部でも、危険地域であるというのは、大抵はゴミが散乱しているような場所でもある。

そこは最初から危険だったのではない。最初にゴミが放置されたことが始まりだったのだ。

それを見て管理されていないということに気付いた人間が大量のゴミを捨てるようになり、やがて犯罪の巣窟になっていく。まさに、「割れ窓理論」そのものの推移がそこにあった。

割れた窓が放置されていると、そこは管理されていないというメッセージを発することになる。それが犯罪者を呼び寄せる。

ホームレスの放置は犯罪を招き寄せる呼び水?

ホームレスはゴミではないが、実はホームレスの放置は犯罪を招き寄せる呼び水になることは、ニューヨークでもロサンゼルスでも知られている。

ひとりのホームレスが居着き、それを放置していると、その地区全体にホームレスが集まる地区となる。

そうなると、普通の人が寄りつかなくなり、ますますホームレス天国になっていく。やがてはそれが、犯罪を発生させる要因となっていく。

実はそうして出来たのがロサンゼルスの「スキッド・ロウ」であると言われている。スキッド・ロウはホームレスの集積地でもあり、ドラッグ犯罪と売春のメッカでもある。

恐らく最初は、数人のホームレスを放置していたことにあるのだろうが、それが全米屈指のホームレス・タウンと成長していった。(スキッド・ロウ。格差社会アメリカで貧困層が集住する場所

よくよく考えると、日本でも山谷という貧困区(飯場)があるが、山谷は上野駅に近く、かつては地方からやって来て仕事にあぶれた人間が路上に転がっていた場所だった。

それが2人、3人、さらに10人、20人と増えていくうちに、あぶれ者たちの拠点と成長したのだろうと容易に想像できる。

貧困地区も、元はと言えば1人のホームレスが生み出したものの可能性がある。

ニューヨークの元市長であるルドルフ・ジュリアーニは、そう考えて1990年代にホームレスを徹底的に排除することによって、ニューヨークを安全な都市に作り上げた。

ホームレスの放置は犯罪を招き寄せる呼び水であることが、これで証明されたのである。


スキッド・ロウのホームレスとゴミ。貧困地区も、元はと言えば1人のホームレスが生み出したものの可能性がある。

「割れ窓理論」は、様々なところで使われる

私がこの「割れ窓理論」が面白いと思うのは、社会の至る所で見かける問題は、多くが「割れ窓理論」で成り立っており、その解決方法もまた「割れ窓理論」にあるということだ。

この理論はビジネスにも応用されている。

「問題を放置していれば、その問題がやがてゴミのように増殖して管理不能になる」というような捉え方で、小さな問題を徹底して潰していくという方法で使われる。

また、素行の悪い不良社員をひとりでも放置していれば、どんどん他の社員も不良化して、最終的に取り返しがつかないことになるという捉え方で、割れ窓理論を応用する経営者もいる。

個人でも、「自分の悪い習慣を放置していれば、それがどんどん増殖して最後に自分の人生に取り返しのつかないようになる」という考え方で自分の行動指針を作る人もいるのかもしれない。

「割れ窓理論」は、様々なところで使われる。

管理されないものが放置されると、やがてそれが物事を悪化させるというのは、それほど普遍的なものであると言えるかもしれない。

この「割れ窓理論」は、これから無法国家や犯罪国家や失敗国家になっていく国がどこなのかを、手っ取り早く統計で見るのに使っている。

その国の失業率が増えていたり、財政赤字が増えていたり、物価が異常に上がっていたりする動きが継続して起きているというのは、その国に「割れた窓」ができているということだ。

それが数年に渡って放置されると、当然その国には貧困者が増えていく。貧困者が増えるというのは、治安を悪化させて、犯罪をたくさん生み出す元凶になる。

そうなると、ドラッグや売春ビジネスが底辺ではびこっていく。ストリートにドラッグと売春が蔓延していくと、それは物理的に取り締まりができなくなって放置される。

アンダーグラウンドの増殖も、失業率や財政赤字という「割れた窓」が呼び水になっているので、それが改善されるのか放置されるのかで、アンダーグラウンドがどうなるのかが見える。

この理論は、他国をさまよい歩くハイエナたちにとっては、最重要なものであると言える。


失敗国家の代表であるコンゴ。この大量殺戮国家では、死体さえも放置される。ひとつの死体の放置が何を生み出すのか。それがこの国の惨状だ。

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