人身売買というと、日本では非常に希有で異様な犯罪に見えるかもしれないが、途上国に行くとそれが希有でも異様でもなく、ごくありふれた日常であることに驚く。
私はかつては旅人であり、東南アジアで流れるようにして生きていたが、その「流れ者」の私も取引を持ちかけられたことがある。信じられないかもしれないが、一度や二度ではない。
ひとつはタイのヤワラーの安宿にいたとき、廊下をはさんだ向かいに泊まっていた無職の女性が私に自分の赤ん坊を売ろうとした。
彼女は2歳ほどのよちよち歩きの赤ん坊と一緒だったのだが、この子が邪魔だったのだろう。
私が彼女の赤ん坊にお菓子を与えて「可愛い子だね」と仲良くしているのを見て、唐突に彼女はこう言った。
「欲しければ上げる」
「(私の子供を)買ってくれない?」
私は絶句したが、彼女は本気だった。そんなに子供が欲しければ、売ってあげてもいいという態度だったのだ。これはいつの話だと思うだろう。2011年4月の話だ。