私が自分の人生で最も驚いたトイレがある。タイ南部のハジャイからスンガイコーロクに向かう旅路の中で、経験したトイレだった。
夕刻、田舎に降りたって旅社を捜したのだが、この田舎の町には旅社がなかった。しかし、次のバスはもうない。
ここで、野宿するか民家に泊めさせてもらうかの二者択一になったのだが、この時は、ある村人の家に泊めさせてもらうことができた。
農家の平屋のようなところで、もちろん民家なのでクーラーもベッドもなく、床でそのまま寝るスタイルである。それはいいのだが、この民家にはトイレが外にあるという。
暗闇の中、指し示されたトイレに向かって半畳ほどの小屋に入ると、かすかな光で、板きれの間に穴があるのが見えた。なるほど、こんな粗末なトイレもあるのかと思ったら、穴の下から何か気配を感じて私は死ぬほど驚いた。
気のせいかと思ったのだが、しばらくすると、やはりガツガツと土を踏み叩くような音が聞こえる。