2020年代の明日はどっちだ? 1970年代に変質した世界は再び変化するか?

2020年代の明日はどっちだ? 1970年代に変質した世界は再び変化するか?

1960年代後半から1970年代にかけて広がっていったヒッピー時代を調べていると、道徳破壊の痕跡があちらこちらに残っていて興味深い。ベトナム戦争に反対する若者たちの運動が完全に社会を変えてしまい、その運動の前と後ではまったく違った社会になっていることに今さらながら驚きを隠せない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

1970年代から続くリベラル主導の偏向に楔が打たれた

私が2020年代で注目しているのは、長らく続いてきたグローバル化の信奉やリベラルが主導した多文化共生の押し付けが、打破されていく流れが生まれるのかどうか、ということにある。

トランプ大統領は、グローバル化や多文化共生に対して「そうではない。アメリカ人にはアメリカ第一主義が必要で、多文化共生よりもアメリカの文化が重要だ」と、明確に「ノー」の声を上げた驚嘆すべき異質の大統領だった。

これは、1970年代から続くリベラル主導の偏向に楔(くさび)が打たれた最初の動きでもあった。トランプ大統領の登場によって、人々はリベラルに染まっていく流れの中で、はっと「目を覚ました」とも言える。

かつてアメリカはキリスト教系の価値感の強い文化を持ち、「男は男らしく、女は女らしく」という保守的な文化しかなかった。しかし、やがて時代が変わり、「男らしさ、女らしさ」にこだわらない若者たちが現れるようになった。

アメリカの新しい価値感の転換を象徴した世代は「ヒッピー」である。

1960年代、アメリカはベトナム戦争を戦っていたが、このベトナム戦争の修羅場はテレビで生々しく報道されるようになり、それを見た若者たちがこのように疑問を持つようになった。

「どうして我々が見も知らぬアジア人を虐殺しているのか?」

やがて、アメリカ政府が東南アジアの片隅で行っている戦争という名の「虐殺」に反対する若者たちが大学を基点として反対デモや抗議デモを起こすようになり、やがて彼らが「反体制派=ヒッピー」となっていく。

彼らのモットーは、「徹底した反体制」だった。そのため、体制側のすべての文化を破壊することに情熱を注いだ。「男は短髪で男らしくしなければならない」と言われれば、それに反抗して長髪にした。

「背広を着ろ」と強制されたら、それに反抗して女性のように中性的な服を着るようになった。

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ヒッピー文化は何もかも破壊していく文化だった

「一夫一婦制が正しい」と強制されたら、それに反抗してヒッピーたちはフリーセックスを実践するようになった。「家族は大切だ」と強制されたら、ヒッピーたちは集団生活(コミュニティ)をするようになった。

そして「ドラッグを吸うのは馬鹿だ」と頭ごなしに言われたら、ヒッピーたちはドラッグを吸うようになった。

そうやって、ヒッピー文化は何もかも破壊していった。

「同性愛は病気だ」というのはこの時代もまだ続いていた概念だったが、それもヒッピー文化の発祥地であるサンフランシスコでは容認されて、後にハーヴェイ・ミルクのような重要な人物を輩出している。

このように見ていくと分かる通り、アメリカのすべてを変えたのは、ヒッピー文化だったのである。現代のアメリカのリベラルを語る上で、ヒッピー文化は知らずに通り過ぎることはできない巨大なムーブメントであった。

自由なセックスという概念が定着したのも、このヒッピー文化からだったが、これは女性にも大きな影響を与えた劇的な文化的転換だった。

女性の性の解放は、紛れもなく1960年後半のヒッピー・ムーブメントから生まれていったのだ。世界中でこの風潮が煽られ、1970年代以後は「貞操を守るのは古い」という価値の転換が徐々に起きていた。

この時代は若者の熱気がむんむんと溢れた熱い年代だった。若者はすべてをひっくり返したのだ。ヒッピー文化の洗礼を受けた世代とそれ以前の小説や映画を観ていると、「本当に以前と同じ国なのか?」と首を傾げるほどの変化がある。

もう今では信じる人もいるかどうか分からないが、欧米でも貞操を守るのが美徳とされた時代がずっと続いていたのだ。

「女性は夫に従う」「女性は夫に口を出さない」のが女性のあるべき姿だと言われていた時代があった。これが、すべて崩壊した。今では「女性は夫に従う」「女性は夫に口を出さない」を実践する女性は、フェミニストから袋叩きに遭う。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

中ピ連の過激な活動と、映画『エマニエル夫人』

当時の日本人は、アメリカ文化に心酔していた。アメリカは偉大な国で、アメリカは目標であり、アメリカは真似すべき国だったのだ。

アメリカでエルビス・プレスリーが流行したら、日本にもエルビス・プレスリーが大流行した。アメリカでグループ・サウンドが流行したら、日本でもグループ・サウンドが流行した。

そして、アメリカでヒッピーが生まれ、長髪の若者が時代の最先端を飾るようになると、日本もまた若者たちがみんなアメリカのヒッピー文化を真似るようになった。

アメリカで反戦フォークが流行ると、もちろん日本でも反戦フォークが流行し、ボブ・ディランの物真似みたいな日本人のシンガーも次々と現れた。

アメリカでベトナム戦争反対運動が湧き上がると、日本人の若者もなぜかベトナム戦争反対運動を日本で起こすようになった。すべてがそんな調子だったのだ。

アメリカで「自由なセックス」が流行すると、もちろん日本人女性もこうした流れに与するようになる。

そして、経口避妊薬(ピル)を解放せよという中ピ連(中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合)が過激な抗議運動を起こすような時代になっていた。

気に入れば誰とでも寝る、乱交も問題ない、誰にも縛られないで生きるというのは、まさに反体制の象徴的な行動だったが、そのためにはピルが必要だ。中ピ連の運動は、女性のセックス解放の運動でもあると、当時のフェミニストは考えていた。

中ピ連が抗議活動をして社会の耳目を集めているとき、世界では不思議な映画が大流行していたのだが、それが「初の女性向けポルノ」と言われていた『エマニエル夫人』だった。

この映画が日本に入ってきたとき、保守的であると言われていた日本女性が大挙して映画館に押し寄せて、シルビア・クリステルのみずみずしい裸体を見つめたのだった。

以後、映画『エマニエル夫人』は女性の性的解放の象徴的かつ伝説的な映画となっていく。(ブラックアジア:伝説の映画『エマニエル夫人』に仕掛けられていたものとは?

インドの貧困層の女性たちを扱った『絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち』の復刻版はこちらから

グローバル化・多文化共生に対して凄まじい反発と嫌悪

この1960年代後半から1970年代にかけて広がっていったヒッピー時代を調べていると、道徳破壊の痕跡があちらこちらに残っていて興味深い。

ベトナム戦争に反対する若者たちの運動が完全に社会を変えてしまい、その運動の前と後ではまったく違った社会になっていることに今さらながら驚きを隠せない。

良し悪しは別にして、社会は継続的かつ熱狂的なムーブメント(社会運動)が起きれば、どんな頑迷な社会でも大きく変化していくというひとつの象徴がヒッピー文化である。

アメリカはヒッピー文化で変質してしまったが、それで良かったのか悪かったのかは、誰にも分からない。

この文化的な転換があったから現代社会があるのだが、逆にこの転換がなければ実はもっと良い社会があったかもしれないので、一概にヒッピー文化があって良かったのだと言い切れるものではない。

ここで重視しなければならないのは、時代が変わったことに対する良し悪しの批評ではない。「社会はある時から凄まじく変わってしまうという」事象を認識することだ。

現在、欧米では今まで続いてきたグローバル化・多文化共生に対して凄まじい反発と嫌悪を示す層がどんどん増えてきている。それが各国のひとつの巨大ムーブメントと化している。

グローバル化は今まで「これが突き進めばみんな幸せになる」という奇妙な多幸感(ユーフォリア)とセットになって語られていた。

ところが、グローバル化が進めば進むほど貧困と格差が広がり、異民族が異文化を持ち込んで多文化衝突が引き起こされ、治安も秩序も悪化し、対立と衝突と暴力が生まれるようになった。

そんな現実を目の当たりにして、人々は突如としてグローバル化に対して拒絶反応を見せるようになった。それが2016年になってから、イギリス国民のEU離脱であったり、ドナルド・トランプの登場として現れたのだ。

トランプ大統領が火を付けて燃え上がった「反グローバル化・反リベラル・反多文化共生」は、トランプ大統領の影響力が喪失すると共に萎んでいくのか、それとも逆に大きく燃え上がっていくのか、私は固唾を飲んで見守っている。

2020年代の明日はどっちだ?

『Music From Original Soundtrack & More: Woodstock』

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