世界中でワーキングプアが広がっている。この流れは日本にも浸透しており、今や若年層だけではなく中高年の非正規雇用も当たり前になった。

非正規雇用はバブルが崩壊した直前の1990年は約881万人だったのだが、これが2014年になると約1962万人になっていた。2倍強だ。いかにバブル崩壊以後に日本の社会環境が変わったのかが分かるはずだ。

労働者は完全に「使い捨て」の時代になった。その非正規雇用の約7割は女性であるわけで、今や単身女性の3人に1人は貧困状態である。

働いても働いても豊かになれない、そして明日がどうなるのか分からない現状は人々を不安にさせる。

明日は給料が減らされるかもしれない。明日はリストラされるかもしれない。明日は仕事がなくなるかもしれない。明日は金が尽きるかもしれない……。

すでに金が尽きて、銀行のカードローンや消費者金融で生活費を借りるようになった人たちもいる。

消費者金融と言えば、ギャンブルや遊びで蕩尽した人が使うようなイメージもあるが、今では「食費や光熱費が払えない」から借りている人の方が多い時代になっているのである。


激しい不安とストレスが、やがて心を壊していく


こういった苦しみは人の心に大きなプレッシャーを与え、そのストレスはずっと人間につきまとう。

欧米先進国でも日本でも、いつ終わるとも分からない不安感によって心身が不調になる人が増えており、とりわけ心が壊れる人が続出していると言われている。

抗鬱剤や睡眠薬が製薬会社のドル箱になっているのは、何でもかんでも病気認定して薬を売りたい製薬会社の陰謀のようにも言われる。

しかし、実際にこの分野に大きな需要があるということも見逃せない側面だ。

雇用が不安定になり、賃金が低下し、生活に支障が出たり先の展望が見えなくなると、人は不安でたまらなくなる。そして、抗鬱剤や睡眠薬がないと生きていけなくなる人が増える。

こうした不安が解消できないと、最後には自殺を考える人も出てくるようになる。

人は自殺にまで追い込まれるとき、いきなり死ぬわけではない。その前に、激しい心の消耗とストレスにさいなまされて、やがて「心」が押しつぶされるという過程を辿るのだ。

「心」は目に見えないものだが、見えないから壊れないわけではない。むしろ、それはとてもデリケートなものであり、壊れやすいものでもある。

では、どのように壊れるのだろうか。

「心」という実態のないものなのだから、数百種類、数万種類の壊れ方があるように私たちは思う。

しかし、どこの国でも、どんな個性的な人でも、心の壊れ方は「2つ」しかないというのが精神医学の世界では主流であると言われている。

自分がどちらの種類なのかは、まだ余裕があるときに知っておいたほうがいいかもしれない。

自分を意識して壊れるか、他人を意識して壊れるか


「心はどのように壊れるのか」を分かりやすく知るには、このように考えて欲しい。

(1)他人を意識して心が壊れる。
(2)自分を意識して心が壊れる。

精神分裂病、あるいは統合失調症というのは、「他人を意識して心が壊れる」ものだ。逆に鬱病や躁鬱病と呼ばれるものは、「自分を意識して心が壊れる」ものである。

統合失調症の特徴は「誰かに監視されている」「自分の考え方が他人に読まれている」という症状が現れるのが特徴だ。これは言ってみれば「極度なまで他人を意識した状態」である。

不安定な社会に対して適合できなくなって心が破壊されていった時、「他人があらゆる方法で自分の人生を破壊しようとしている」という激しい妄想にとらわれ、そこから抜け出せなくなってしまうのである。

まさに他人を意識して壊れた状態になる。

一方で鬱病の場合は、この統合失調症とはまったく違う壊れ方をする。鬱病は自分で自分を責めて心が壊れる状態である。

不安定な社会に対して適合できなくなって心が破壊されていった時、「自分がしっかりしないからこんなことになった。自分が悪い。こんな自分が情けない」と自責し、そこから抜け出せなくなってしまう。

これは自分を意識して壊れた状態である。

人は様々な社会現象の中で追い詰められ、にっちもさっちもいかなくなって心が壊れていく。その時、この2つのどちらかの壊れ方をするのだ。

どちらも心が壊れた状態であるのは間違いないのだが、他責になるのか自責になるのかで方向性が真逆に違っている。

どちらであっても、一度壊れた心は回復に時間がかかり、もし最終的に治らなければ自殺に追い込まれることもある。どちらも非常に危険な状態である。

人間の心を破壊する社会はとっくに到来していた


人間の心が壊れやすい時代は、これからもずっと続いていく。だから、自分がどちらの壊れ方をするタイプなのかを知っておくのは無駄ではない。

仮に自分が「他人を意識して心が壊れる」タイプであれば、心がどんどん社会に翻弄されて壊れていく動きを見て、「このままでは心が壊れるだろう」と意識することができる。

仮に自分が「自分を意識して心が壊れる」タイプであれば、心がどんどん自分を「ダメだ」「情けない」と追い込む動きを見て、「このまま放置していては心が壊れるだろう」と意識することができる。

世の中がおかしくなればなるほど、世の中が暗転すればするほど、意識して自分の心を管理しなければ、やがて心も壊れてしまうことになる。

現代社会は、雇用の不安定化と流動性がどんどん増していき、さらには企業の極度なまでの利益重視主義の経営によって労働者の賃金は長期的に見れば削減されていく方向にある。

もちろん短期的に見れば、一時的に逆の動きをすることもある。雇用と賃金削減が急激になると、社会不安が増して政治が関与するからだ。

そのため、ある時期のみを見て、社会が改善されたかのように錯覚を起こす人もいる。

しかし、そうではない。

長期的に見ると、すでに弱肉強食の資本主義は労働の価値を低下させる方向で動いている。雇用はより不安定になり、賃金はより削減されていく。

こうした社会の中では、実際にワーキングプアに落とされてしまったり、不安や心配や困窮で追い詰められる人が増えるのは避けられないので、心を壊す人はどんどん増えていく。

精神科に通うのが普通になり、抗鬱剤や睡眠薬に大きな需要が生まれ、製薬会社が超巨大多国籍企業になっている現状に私たちは気付かなければならない。

人間の心を破壊する社会はとっくに到来していたのだ。



精神科に通うのが普通になり、抗鬱剤や睡眠薬に大きな需要が生まれ、製薬会社が超巨大多国籍企業になっている現状に私たちは気付かなければならない。人間の心を破壊する社会はとっくに到来していた。



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