2017年7月3日、兵庫県で少し奇妙な事件が起きている。

無職の男が県迷惑防止条例違反で逮捕されたというものだが、警察に訴えたのが72歳になる父親、逮捕されたのが40歳になるその息子だった。

この40歳の息子は何をしたのか。父親の家に何度も何度も押しかけて毎回、数千円を要求するという「嫌がらせ」を行ったのだという。

実はここ10年間、この息子は定職に就かずにしばしば父親に金を借り続ける生活をしており、すでに父親は退職金から2000万円以上を息子に渡していた。

あまりにもたびたび息子が金をせびりにやってくるので、父親は困り果てて2017年4月に警察に相談、一度は警察が口頭でこの息子に注意を与えていた。

しかし、息子の「せびり癖」は治らず、その後も父親の家におしかけては数千円単位で金を毟り取りにやってきた。たまりかねた父親がとうとう警察に電話して逮捕してもらったという事件だった。

迷惑防止条例違反というのは、痴漢、押し売り、盗撮、スカウト、ピンクビラ等に当てはめられることが多いのだが、金をせびりにやってきた息子に適応するのは珍しい。


自立できない子供たちが親の重荷となっていく


多くの人は、老後の生活のためにせっせと貯金する。60歳、あるいは65までに退職した後、退職金が出るとそれもまた老後のために貯める。

自分が何歳まで生きられるのかは誰も分からないので、貯金はなるべく残しておかないと長い老後で困窮してしまう。老後の貯金は、高齢で働けなくなった自分の自衛のために必要としているものである。

息子や娘がいたとしても関係ない。本来であれば子供たちはどんなに遅くても20代のどこかで巣立っていき、その後は自立して生きるのが普通だからである。

五体満足の、健康な子供たちであれば、学校を卒業すれば自立して生きるのが当たり前なのだ。しかし、その当たり前が通用しないこともある。

何らかの理由で学校もいかずに家に閉じこもってしまう子供もいれば、いったん就職してもうまくいかなくて実家に戻って閉じこもってしまう子供もいる。

少し働いてはすぐに辞めてしまうニートやフリーターのような子供たちもいる。

こうした子供たちは元から自立心がまったくないことが多い。自分から家を出ることなど考えもしない。また親も子供が引きこもるのをずるずると許しているうちに、やがて自分の子供が自立できないことを知る。

こうした子供を無理やり家から放り出したらどうなるのか。危機感を感じて自分ひとりで強く逞しくしたたかに生きようとするだろうか。

いや、相変わらず何もできず、途方に暮れ、社会の底辺でホームレス寸前にまで落ちぶれてしまうのがオチだ。7月3日に兵庫県で逮捕された40歳の息子というのも、年齢こそ40歳であるが、そのようなタイプだった。

自立できない子供が親の重荷となって親を追い詰める。

35歳を過ぎても働かないで親に寄生(パラサイト)


「親から見たら子供はいつまで経っても子供」とは言うが、それでも40歳と言えばいい大人だ。あらゆる角度で見て40歳は子供ではない。

自分のことは自分で解決しなければならない年齢である。

この40歳の息子はいつまで経っても定職に就かず、漫画喫茶に寝泊まりしていたというのだが、親に金をせびるようになったのは10年前なのだから、10年間も何ら進歩がなかったということになる。

これは自立できないタイプは、たとえ30代であろうが40代であろうが自立できないままであることを示唆している。

それを裏付けるのは2017年3月6日の茨城新聞の記事である。そこにはこのようなデータが示されていた。

「引きこもりの3割が40代、10年以上は4割」

2014年に内閣府が「景気が改善したのでニートが3万人も減った」と自画自賛して炎上したことがあった。

なぜ炎上したのかというと、ニートが3万人減ったのではなく、ニートが高齢化して35歳以上に移行して統計に含まれなくなったのを「減った」と解釈して、それを「景気が改善したから」と結論づけたからである。

ニートは「若年無業者」と厚生労働省は言っているのだが、若年とは何歳なのかというと34歳までを指す。

ニートは現在約56万人いると政府は統計を出しているが、35歳を過ぎてもニートのままでいる子供は、35歳の誕生日を迎えると突如としてニートという統計から消える。

しかし34歳までニートだった人がいきなり35歳の誕生日を過ぎてやる気を出して働けるようになるわけではない。2014年からニートが減ったというのは、つまりこの頃からニートは「高齢化した」というのが正しかったのだ。

この35歳を過ぎても働かないで親に寄生(パラサイト)する子供たちが、いよいよ親を追い詰めるようになり始めているというのが分かる。

「法的な排除」を望む親もこれから出るか?


今まで働かない子供を抱えながら苦境に堕ちている親の存在を社会は見て見ぬフリをしてきた。なぜか。その方が納税者としては合理的だったからである。

「仕事もしないで家に引きこもるのを許したのは親なのだから、その責任も親が見るべきだ」「親が甘やかした結果そうなっているのだから、親が最後まで面倒を見ろ」

このように言う人も多かった。実際、生活能力のない子供のために親が四苦八苦して面倒を見る姿は今に始まったことではなく、昔からどこの国でもある話だ。

「親が何とか子供を養えるのであれば、親に面倒を見させれば私たちの税金をニートの救済や生活費に支払わなくても済む」という計算がその裏側にある。

しかし、経済環境が悪化し、社会福祉が徐々に削減されるようになり、親の経済環境が悪化すると、もはや寄生する子供を養えない親もこれからは出現するようになる。

その場合、引きこもりの子供を親から引き離すと親は自立できているので、税金で面倒を見るべき対象はニートひとりだ。

共倒れになるとニートとその両親(もしくは片親)の面倒まで見なくてはならなくなるので、面倒を見るべき対象が一挙に2倍や3倍になる。

つまり、今後は高齢層の経済環境が悪化するので、親に面倒を見させて共倒れになることで、より生活破綻者の救済に税金がかかるようになっていく。

すでに高齢層の生活保護受給者の数は無視できないところにまで来ている。

引きこもりの子供が親を破綻させるのであれば、そうした子供を親から切り離して親だけでも自力で暮らせるようにした方がいいと厚労省も考えるはずだ。厚労省も馬鹿ではない。

とすれば、これから働かない子供は親を破綻させないために法律が介在して子供を引き離す動きが徐々に広がっていく可能性もある。

何とか自立できている親の側を救済するために、引きこもりの子供が法的に排除される。

老後の貯金を食い潰す子供に疲れ果て、「法的な排除」を望む親もこれから出てきたとしても不思議ではない。高齢者の貧困はこれからが本番だからだ。

まだ、その動向は分からないが、そういった目で見ると迷惑防止条例違反で逮捕された40歳の息子の事件は興味深い事件ではある。



ホームレスの中には、引きこもりの状態から親に見捨てられた人たちもいるはずだ。経済的に親に頼れなくなって社会に放り出された子供たちは、翌日から働けるようになるわけではない。しかし、今後は親を破綻させないために法律が子供を強制排除するようになるのだろうか?



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