母子家庭は日本ではどれくらい存在するのか。

厚生労働省の「平成27年・国民生活基礎調査の概況」を確認すると、2015年は全世帯の中で母子家庭が占める割合は1.6%でしかない。

とても少ないように見える。ところが、これを世帯数で見るとそう少なくはない人数であることに気付く。

日本は母子家庭が79万3000世帯となっている。

この母子家庭の相対的貧困率は54.6%で、分かりやすく言えば約半数が貧困にあえいでいる。

母子家庭の19.4%、つまり約20%の母親は仕事を持っていない。そして、仕事を持っている母子の57%は非正規である。シングルマザーは無職と非正規で76.4%を占めているということになる。

この非正規で働いているシングルマザーの平均年間就労収入は「125万円」であると厚生労働省の資料「ひとり親家庭等の現状について(平成27年4月20日)」は述べている。

125万円と言えば、月換算で計算すると約10万4200円ほどである。ざっくり言えば月10万円がシングルマザーの収入であると言える。10万円で母親は自分と子供の生活を成り立たせなければならないのである。


母子家庭は、80.8%が「離婚」でひとり親になった


今の日本では、自分ひとりで10万円で暮らすというのも経済的に苦しいが、母子家庭はそこに子供が加わる。その貧困は私たちが想像する以上に悲惨なものになっている。

都会では家賃が安いと言っても3万円くらいまでが限度だろうから、そこに光熱費等が加わると、最低でもそれだけで5万円は飛んでいくだろう。

その他の雑費を差し引くと、約10万円で実際に使える金額はそれこそ3万円残ればいいかもしれない。

この3万円の範囲で子供を育てなければならないとしたら、それがどんなにキツいことなのかは、当事者でなくても想像が付く。

ところで、彼女たちはどうして「ひとり親」になってしまったのか。厚生労働省のデータでは「ひとり親になった理由」として母子家庭は80.8%が「離婚」であったとしている。

最初から結婚しなかった女性は7.8%、夫と死別した女性は7.5%だった。このデータを見ると、「離婚」が女性を追い詰めていることが分かる。

日本では結婚したカップルの3組に1組は離婚に至る。離婚に至る理由は様々なものがあるのだが、現代の日本は昔と違ってひとり親世帯に転がり落ちやすい環境にあると言える。

子供を抱えて離婚すると、子供の多くは母親が面倒を見ることになる。

本来であれば、離婚したとしても父親が養育費を送らなければならないのだが、養育費の未払いは多い。取り立てようとすると、住所すら分からなくなる父親も多い。

そうなると、女性は働きながら何とか自力で子供を養わなければならない状況になる。

しかし、こういったシングルマザーにフルタイムの仕事は、なかなかできない。子供に時間が取られるからだ。

そうなると働き先は必然的にパートになるのだが、このパートの基本賃金が安いのである。しかも、子供が病気になったりすると欠勤も余儀なくされるので、収入が減る要素の方が増えていく。



日本は母子家庭が79万3000世帯となっている。この母子家庭の相対的貧困率は54.6%で、分かりやすく言えば約半数が貧困にあえいでいる。

追い詰められたシングルマザーと母子心中の事件


2014年9月24日、千葉県銚子市の県営住宅に住む母子が賃料滞納のために立ち退きを迫られた。このシングルマザーは長年の生活苦に疲れ果てていた。

家賃の滞納も生活苦から来たものであり、ここを追い出されると彼女は14歳の娘と共に路頭に迷うしかなかった。

そのため、母親は親子心中を思いつき、立ち退きの日に娘の首を絞めて殺し、死んだ娘の側で母親は娘が写っているビデオを無言で見ていた。このビデオが終わったら、彼女は自分も死ぬつもりだった。

しかし、その前に立ち退きの執行官がやってきて、母親は死ねなかった。そんな事件があった。

彼女も離婚によってシングルマザーになっていたのだが、離婚の原因は、夫のめちゃくちゃな経済観念だ。元夫は分かっているだけで600万円近い借金を持っていた。

彼女は自分の親に金を借りて元夫に渡した。それは働いて返してもらう約束をしたのだが、元夫はその約束を守らなかった。結局、このことが原因で別れることになったのだが、夫はその後、金を返さないまま行方不明になった。

彼女は給食センターのパートで働いていたのだが、月給は平均して11万程度であった。

その中で、彼女は娘が欲しいというアイドル関連のDVDやデッキや液晶のテレビなどを買い与えていたのだが、親としてなるべく子供に貧困を感じさせないように努力していた形跡が垣間見える。

こうしたものは分割36回ローンでまかなっていたが、もともと月給が少ない彼女にとっては痛い出費だっただろう。

やがて、娘が中学生に上がる頃、娘の制服代が払えずに社会福祉協議会に借り入れをしたのだが、それでも足りずに彼女は関わってはいけないものに関わった。

ヤミ金に足りない金を借りたのである。利息も聞かずに彼女は金を借りた。そうすると毎週1万円を返せと激しく電話がかかってくるようになり、少しでも返済が遅れると脅されるようになってしまった。

このヤミ金にカネを毟り取られ続けて家賃も払えなくなってしまい、そして強制立ち退きの日に娘を殺してしまったのだった。娘の制服代が致命傷になった事件だった。



母子心中のあった県営住宅。娘の制服代が致命傷になった。ヤミ金の追い込みに精神的に大きなダメージを受け、家賃の滞納で立ち退きを迫られ、母親は生きる希望を失った。

79万3000世帯の母子家庭のうち半数は順調ではない


一度、そうやって貧困側に堕ちていくと、ありとあらゆる要素が悪い方のドミノ倒しになっていく。

アメリカのピューリッツァ賞の記者であるデイヴィッド・シプラーは、著書『ワーキング・プア アメリカの下層社会』の中で、このように述べる。

「どの問題もその他の影響力を増幅させ、すべてがしっかりと結びついているため、一つの不運がもともとの原因からずっとかけ離れた結果を伴う連鎖反応を起こすことがある」

日本では「弱り目に祟り目」だとか「泣きっ面に蜂」という格言がある。いったん問題が起きると、それが引き金になって次から次へと悪いことが一気に表れる。

デイヴィッド・シプラーが、上記の著書で述べている例はこのようなものだった。

(1)荒廃したアパートに住んでいる。
(2)それが、子供の喘息を悪化させる。
(3)それが、救急車を呼ぶことにつながる。
(4)それが、払えない医療費となる。
(5)それが、カード破産を招く。
(6)それが、自動車ローンの利息を引き上げる。
(7)それが、故障しやすい中古車の購入になる。
(8)それが、職場の遅刻につながる。
(9)それが、昇進と稼得能力を制約する。
(10)荒廃したアパートから出られなくなる。

悪いことが、次の悪いものを引き寄せ、それがまた悪いものを引き寄せる。荒廃した粗末な住宅に住んでいることが、予想もしない悪影響を与え合って、どんどん自分の足を引っ張る。

まるで玉突き衝突のように、ひとつの悪いことが次の悪いことを引き寄せて止まらない。

そうやって、負の連鎖、負のスパイラルがぐるぐると回って、いったん蟻地獄に落ちると、這い上がるのに相当な時間がかかるか、もしくは二度と這い上がれなくなってしまうのだ。

人の人生はとても不確かだ。

今は順調でも、何かほんの些細な出来事や決断が、予想もしない致命傷となって自分の人生を壊してしまうことがある。

今の日本は、母子家庭にそうした転がり落ちるような貧困に向かわせる社会となっている。

79万3000世帯の母子家庭のうち半数は順調ではなく、いつでも極限に沈む恐れがある。社会全体が追い詰められてしまうと、母子家庭の苦境も放置される。

ひとつ踏み外すと、女性はいつでも地獄が待っている。



79万3000世帯の母子家庭のうち半数は順調ではなく、いつでも極限に沈む恐れがある。社会全体が追い詰められてしまうと、母子家庭の苦境も放置される。