AFP通信は、2017年10月7日に公表されたブラジルの世論調査で、リオデジャネイロの住民の72%が「可能ならば治安の悪い同市から出たい」と答えていると報道している。

リオデジャネイロはブラジルを代表するメガシティで、人口は600万人を超え、巨大なキリスト像があることで有名な観光都市なのだが、この内情はめちゃくちゃだ。

治安の悪化は今に始まったことではないのだが、ブラジルの治安は日本に比べてどれくらい悪いのか。

在ブラジル日本大使館のホームページが日本との犯罪発生率の比較をしているのだが、それによると、このようになっていると記している。

殺人:約28倍
強姦:約25倍
歩行者強盗:約1500倍
自動車強盗:約1700倍
住宅強盗:約120倍

リオデジャネイロの住民は「夜になったら出歩けない」と言うのだが、これは昼間でも危険なレベルである。

ブラジルでは山沿いに沿ってファベーラと呼ばれるスラムが広がっているのだが、部外者がそんなところに入ろうものなら100%の確率で強盗に遭うとブラジル住民は言う。


タクシーもバスも自分の車も安全ではない治安状況


では、街を普通に歩いていれば問題ないのかと言えば、まったくそんなことはない。在ブラジル日本大使館では、このように注意喚起している。

『信号やバス(バスは強盗等の犯罪に巻き込まれる危険性が高いため、極力利用は避けた方がよい)を待つ間に、後ろからバックをナイフ等で切られ、中身をスラれる、あるいは何気なく近づいてきた子供に所持品をひったくられる事件が多発』

『いきなり後頭部を殴打されたり、タックルで押し倒され、ひるんだ隙に、所持品を奪われる』

『突然、数人の男や少年等に囲まれ、ナイフで脅され所持品を強奪される』

普通に街を歩いていて、突如として犯罪に遭うのだ。しかも、強盗とは戦ってはいけない。

「ひったくりの被害に遭い、逃走する犯人を追いかけようとすると、拳銃やナイフを所持した仲間が立ちはだかり、進路の妨害を図るばかりでなく攻撃してくることもある」からだ。

公共の乗り物も安全ではない。「バスは強盗等の犯罪に巻き込まれる」と日本大使館の説明にもあるが、バスに乗ってハイジャックの心配をしなければならないというのは日本人には考えられない。

しかし、ブラジルではそれが日常茶飯事なのである。

しばしば武器を持ったギャング集団にバスがハイジャックされ、乗客全員が財布や金やスマートフォンを巻き上げられるような事件があちこちで起きている。

タクシーに乗っていても、タクシーが止まったところでギャング集団に乗っ取られ、タクシーごと誘拐されてしまう事件も起きている。

誘拐されて銀行のATMの前で降ろされて、全額を引き出すように言われ拒否したら殺される。女性であれば、そのままレイプされて殺される。

自分の車に乗っていても安全ではない。信号待ちで止まったら囲まれて窓ガラスを割られ、時計やネックレスを盗まれるのである。







貧困問題も治安問題も解決できない大統領たち


もっとも、これでもブラジルはここ10年近くでかなり治安が良くなったと統計に表れている。それなのに、依然として戦争しているシリアに匹敵するほどの殺人事件が起きているのだから尋常ではない。

17年ほど前、ブラジルは新興国の雄として高度成長を成し遂げて先進国を凌駕するとゴールドマン・サックスが全世界の投資家を煽って新興国投資ブームを煽ったことがあった。

しかし、ブラジルが一向に先進国を凌駕しない上に、結局は汚職や不正や治安問題で政治混乱や貧困が解決できずに、停滞してしまったのは見ての通りだ。

グローバル経済はそれでも突き進んでいくので、ブラジルもいずれは変わるのかもしれないが、まだまだ時間がかかるというのは多くの人たちの実感でもある。

暴力が満ち溢れすぎていて、想像以上に経済発展が難しい状況なのである。

街を歩いて危機を感じるようなところでは通常のビジネスは発展しない。銀行、ホテル、商店、レストラン、公共の乗り物には安全が担保されなければ、売上が上がらない。

治安が悪いと客が来ないし、何とか売上を上げてもそれを強盗される。

事実、ブラジルでは閉店間際に強盗が商店になだれ込んで銃を突きつけながらその日の売上を奪っていく事件が多発している。なぜ閉店時間なのか。もちろん、その頃が売上が最大になっているからである。

銀行強盗もよく起きるし、銀行から出てきたばかりの客も強盗の格好の標的だ。2017年1月16日にはサンパウロで40代の日本人が射殺されているのだが、この日本人も銀行に立ち寄った後に殺されていた。

こんな中で、ビジネスが順調に伸びていくとは思えないはずだ。安全は重要なインフラなのである。




貧困問題も治安問題も解決できないまま時間を無駄に


安全は目に見えないインフラだ。重要な社会基盤だ。安全を担保するものは何か。それは「民度」である。

民度によって社会の安全度が変わってくる。

ブラジルが安全な社会を構築できていないというのは、すなわち全体を見ると、決して民度が高いレベルではないということを意味している。

安全は経済発展のアクセルになるのだが、暴力は経済発展のブレーキになる。だから、全世界から大量の投資資金が流れ込んでもブラジルは離陸しそうで、なかなか離陸できない。

ブラジルは「安全」という重要なインフラが足りないのだ。

それが分かっているのであれば、この国が経済発展するためには、まずはその部分を改善しなければならないというのも理解できる。

事実、ブラジルの歴代大統領はみんな貧困や暴力の蔓延に問題意識を持っていた。誰もが貧困と暴力を解決すると選挙で公約した。

ところが、ルラ大統領も、ルセフ大統領も、テメル大統領も、みんなそれに失敗してしまった。

治安を回復するどころか、それぞれの歴代大統領が汚職にまみれて政治混乱を引き起こし、貧困問題も治安問題も解決できないまま時間を無駄にしてしまった。

ブラジルの貧困は放置され、貧困層は「ギャングスター(ゴロツキ集団)」になることが成功と見なして、次々と犯罪の現場に自ら身を投じていく。

手っ取り早く稼ぐために、ドラッグを売り、若い女性をドラッグ漬けにして売春ビジネスで稼がせて上がりをピンハネするようなビジネスも横行している。

これで経済成長するとしたら、大したものだ。

リオデジャネイロの住民の72%が「可能ならば治安の悪い同市から出たい」と答えているのであれば、ブラジルが本格的に経済発展の緒に就くのは、もう少し先だと考えた方がいいのかもしれない。








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