2017年12月6日、ドナルド・トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都として一方的に承認し、同国内のアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転するよう指示した。

これはトランプ大統領の選挙公約にあったものだが、イスラエルを一方的に利するこの公約は、小康状態にあった中東問題を再び大きな火薬庫にする危険性がある。

エルサレムはユダヤ教の聖地であると同時に、キリスト教の聖地でもあり、イスラム教の聖地でもある。

イスラエルはエルサレムを占領してエルサレムを「首都」と宣言したが、パレスチナはそれを認めておらず「エルサレムはパレスチナの首都だ」と主張してイスラエルと真っ向から激突している。

パレスチナの後ろにはもちろん中東の全イスラム教国家が控えており、この問題が激化すればイスラエル・アメリカとイスラム国家の血みどろの紛争、そしてアメリカに向けた大規模テロが続発する恐れがある。

すでに全世界のイスラム教徒が抗議デモと暴動を引き起こしており、自治区ガザで早くもイスラエル軍とパレスチナ人の衝突が引き起こされ、460人が負傷、死者も出している。

事態は急激に動き始めている。


決して交わることもなく、妥協することもない世界


ローマ法王フランシスコは「新たな緊張が世界的な紛争を一段と刺激する」と強い懸念を示し、EU各国の首脳も「同決定を支持しない」と一線を引いた。

しかし、EU諸国は「欧米」と一括りにされるのを見ても分かる通り、確実に巻き込まれる。

EUにはイスラム教徒も多い。トランプ大統領が押し切るようであれば、2018年のEUはこのエルサレム首都問題に端を発した大規模テロが続出するはずだ。

しかし、最も激しく衝突が引き起こされるのは、言うまでもなくパレスチナである。

イスラエルとパレスチナの激突する様を見ていると、この世の中には決して交わることもなく、妥協することもない世界があるということに気が付く。

イスラエル側は、パレスチナ人をテロリストだと言う。「街角で爆弾を炸裂させて罪のない国民の手足を吹き飛ばすのは、まさにテロリストの所業だ」とイスラエル人は問う。

もちろん、その行為は激しいテロに違いない。しかし、パレスチナ人にはパレスチナ人の言い分がある。

「人の住んでいる土地を勝手に奪い、辺境に追いやるイスラエルはテロリスト国家ではないのか」

無関係な人間をテロによって命を奪うのは許せない行為だとイスラエルが叫ぶと、パレスチナ人も言い返す。

「パレスチナ人は石で抵抗していたが、イスラエル側は軍隊が銃を発砲している。それは許されるのか」

パレスチナ人から見ると、「自分たちがもともと住んでいた土地」をイスラエル人に追い出されたという怨念がある。「自分たちの土地は、後からやってきたユダヤ人に奪われた」

パレスチナ人のテロ行為とは、そうやって土地も国も仕事も奪われて貧困に暮らすしかなくなったパレスチナ人の、決死の抵抗運動であるとパレスチナ人は位置づけている。

ところがイスラエルに言わせれば、「この土地は神から約束された地」なので、もともと自分たちの物であると断言する。「イスラエルという国を建国したのも、占領地を1インチも返さないのも、神の約束を守るためである」



イスラエルとパレスチナの激突する様を見ていると、この世の中には決して交わることもなく、妥協することもない世界があるということに気が付く。

「決して相手を許さない」という二者択一の世界


両者はそうやって半世紀以上に渡って、決して交わることのない議論と、互いに抹殺するまで終わりそうにない報復を繰り返してきた。

この収束不可能な戦いは、すでに1960年代からイスラエルを支持するアメリカと、パレスチナを支持するアラブ国家の対立へと拡大して、大きな国際問題と化した。それが、延々と今でも続いているのだ。

かつて民主主義と共産主義が世界を二分し、冷戦と代理戦争によって世界が戦火に巻き込まれていった。この思想で分断された紛争は、共産主義国家の総本山であるソビエト連邦が崩壊したことによって終わりを告げた。

しかし、世界は平和にならなかった。2001年9月11日の同時多発テロ以降、今度はユダヤ・キリスト連合とイスラム連合で世界が分断されようとしている。

民主主義と共産主義、イスラエルの立場とパレスチナの立場、キリスト圏の自由主義国家と、イスラム圏の宗教国家……。

どちらも譲ることのできない立場があり、それが憎しみや対立を生み出すきっかけになっている。歴史問題と宗教対立と領土問題がすべて複雑に絡み合ったこの対立は収束させることができない。

収束のできない議論が、問題に関わり合う人々を二分し、互いに相手に対してやり場のない憎しみを持つ。

だから、アメリカの歴代大統領は、エルサレム首都問題についてはイスラエルにもパレスチナにも加担せず、事態を悪化させないように配慮していたのだ。

しかし、ドナルド・トランプ大統領はまったくスタンスが違う。大統領戦に立候補した時点から、「エルサレムはイスラエルの首都である」と公言して、それを承認することを選挙公約としていた。

イスラム教徒の反発が起きたとしても、最初から強行する覚悟でいたのだ。

2017年12月6日、この選挙公約は実行された。これによって、アメリカはイスラム諸国の「敵」となったわけであり、世界は急激に危険なものになりつつある。



どちらも譲ることのできない立場があり、それが憎しみや対立を生み出すきっかけになっている。歴史問題と宗教対立と領土問題がすべて複雑に絡み合ったこの対立は収束させることができない。

トランプ大統領はアメリカを第三次世界大戦へ導く


ドナルド・トランプ大統領はアジアでも北朝鮮と激しく対立しており、イランの核開発問題でもまったく同じ問題を抱えている。

メキシコとも国境の壁問題で対立し、南米ともドラッグ流通問題で対立し、EU諸国とも地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」の離脱で対立している。

この状態の中で、2017年12月6日からイスラエル・パレスチナ問題にも火を付けたわけで、全方位で敵を作って回っている。

ドナルド・トランプ大統領は対立と紛争と混乱の引き金を引き続けていると全世界が判断している。

微妙なバランスで保たれていた世界の平和をトランプ大統領はことごとく破壊して回っているので、このエルサレム問題以前から激しく警鐘を鳴らしていたのがボブ・コーカー米上院議員である。

「トランプ大統領はアメリカを第三次世界大戦への道に導くという危険を冒している」

ボブ・コーカー米上院議員はそう言った。そして、もはやアメリカの政治に責任を持てないとして引退を表明している。このエルサレム問題でボブ・コーカー米上院議員の懸念を多くの人々が共有するようになっている。

すでにイスラエルとパレスチナの激しい激突の引き金が引かれたのだとすれば、これ以後の世界は憎しみと暴力の世界になって当然である。

宗教対立は、特に譲ることのできない信条のひとつである。それを譲れば、人格が崩壊するほどのアイデンティティの危機になっていく。

だからこそ、イスラエル・パレスチナ問題は、何百万人もの人が犠牲になっても、まだ止まらない。

この地域の衝突が、世界を巻き込んで破局に向かう日が来たとしても、「こうなると知っていた」と人々は言うだろう。憎悪が人間社会そのものを滅ぼす動機になるというのは、誰でも知っている。

イスラエル・パレスチナ問題は、まさに憎悪の連鎖が引き起こしている問題なのだ。



2017年12月6日、ドナルド・トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都として一方的に承認し、同国内のアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転するよう指示した。いよいよ、中東の火薬庫に火が付くのか?



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