中国は依然として世界にとって巨大市場なのだが、毎年7%を超えるような高度成長はすでに終わっており、今後は成長鈍化に苦しむことになる。

中国の成長が鈍化すれば、当然のことながら欧米の多国籍企業の成長もまた鈍化する。

そのため、欧米の多国籍企業は次の開拓地(フロンティア)を探し求めているのだが、注目されていたブラジルは政治不安と治安悪化で失速し、ロシアは欧米と敵対し、南アフリカとその背後に連なるアフリカは離陸しそうにない。

しかし、一国だけ「次のフロンティアになるのではないか」と期待され、見込まれている国がある。

それが、インドである。

インドは2014年から経済成長率が毎年のように7%を超えており、事実上の高度成長期であると考える人もいる。この広大な国が経済的に離陸したら、そのインパクトは中国に匹敵するものとなる。

何しろインドの人口は2017年現在、13億2400万人である。

あと5年から6年で中国の人口を追い抜く。中国の人口を抜くということは、要するにインド人が世界最大の人口を擁する国になるということだ。


インドは投資に値する国なのか、そうではないのか


巨大な人口が巨大な購買力を持つというのは、凄まじいことなのである。

この莫大な人口がスマートフォンを買い、コーラを飲み、スターバックスで談笑し、クレジットカードを使い、健康に気を遣うようになって高価な薬を買うようになったら、いったいどれほどの金が動くのか……。

このインドの巨大市場を虎視眈々と狙う欧米の多国籍企業は、すでに抜け目なくインドに巨額の投資をするようになっている。

アップルやグーグルやマイクロソフトも莫大な資金をインドに投じているし、P&Gもユニリーバもどんどん深く入り込んでいる。欧米のありとあらゆるセクターがインドと関係を結ぼうとしているのである。

インドは投資に値する国なのか、そうではないのか。インドは先進国の仲間入りするのかしないのか。インド社会は、うまくいくのかいかないのか……。

いずれインドも今よりも発展し、投資は報われ、ひと飛びに先進国に向かわなくても、「中進国」くらいにはなっていくのは確実だ。

しかし、問題がある。

インドはあまりにも社会・宗教・体制・文化に深い問題が横たわっており、巨大市場になるとしても、スムーズにそうなるのではなく、途方もなく長い時間がかかるのを覚悟しなければならないということだ。

10年ほど前、インドは投資に値するのかどうかということを考えたとき、私は「期待できない」と考えた。

インドではあまりにに人権蹂躙が跋扈しており、警察も汚職にまみれ、貧困者も無限と言ってもいいほど存在しており、文盲の人たちも相変わらず多い。

そんな国が、資本主義体制に目覚めたと言っても、すぐに対応できるはずがないのは明らかだった。6億人が絶対貧困の中で暮らしており、彼らを経済的に引き上げるだけでもインド政府は相当な苦労と時間を強いられる。



インドには地下鉄も走っている。しかし、20分待っても、30分待っても、電車が来ないときも多い。時刻表などもない。

たかが旅行に行くだけなのに親の名前まで書かせる


社会の非効率さや官僚主義も、そのまま残っている。

たとえば、日本人がインドに行くにはインドのビザを取らなければならない。そのビザはインターネットで登録するのだが、そこに何を書かされるのか。

学歴だとか、職業は言うに及ばない。自分の宗教だとか、外見の特徴だとか、親の名前だとか、過去にパキスタンを旅行したことがあるかどうかとか、以前の国籍はどこなのかとか、二重国籍なのかどうかとか、ジャーナリストなのかどうかとか、個人情報を微細に収拾する。

個人が「たかが旅行」をするのに、「親の名前」「親が存命かどうか」を執拗に聞くのは、インド大使館くらいなものだと言える。

しかも、ビザ申請はインターネットで完結しない。わざわざ紙に印刷したものを「インドビザ申請センター」に出すのだが、これがまたよく分からない駅のよく分からない場所にある。

そこでパスポートを預けたら、今度はパスポートを取られたまま「数日待たされる」のである。終わっても、電話やメールなどで周知が来ない。自分で、できたのかどうかを確かめにいかなければならない。

たかが旅行に行くのに、これほどまで非効率なことをさせるのがインドという国なのである。

ちなみに「親の名前」をドキュメントに書かせるというのは、ビザだけではなく、インドの公式書類の多くはそのようになっているのだという。

その理由を尋ねると、インドでは戸籍制度も国民番号もないので、公式書類に親の名前や出自を書かないと、同姓同名がいた場合、判断できなくなってしまうという理由からそうなっているのだという。

これはインドの警察官から直接聞いた話だ。

インドはITに強い国というイメージがあるかもしれないが、インドの官公庁ではいまだにドキュメントは手書きがほとんどであり、地方に行けば行くほどITの片鱗もない。

コピー機すらも使われず、いまだにカーボンコピーを利用して書類の控えを取るような、そのような非効率なことを平気でしている。

面倒ではないのか。もちろん、面倒だ。だから、政府官公庁の多くの案件が適当なものになっていき、行政もかなり適当なものになっていく。



インドのビザ。インドでは、たかが旅行に行くのに非効率なインド式官僚システムに付き合わなければならない。

インド社会の根本的な欠陥も10年間とまったく同じ


行政と言えば、インドでは貧困層もそのまま取り残されていて、まったく福祉が成り立っていない。

弱者救済は、主に宗教家やNGO団体や政治団体がボランティアで行っている。それは政府が弱者に金を渡そうとしても、その金は途中で消えてしまって弱者に回らないからでもある。

汚職が蔓延していると、途中で金は消えるのだ。弱者に渡る前になくなってしまう。だから、汚職が蔓延したら、弱者は救われないというのが現実だ。

政治家がどんなに美辞麗句を数時間熱弁しても、決してインド社会が救われないのは、非効率さも混乱もまったく改善できないからでもある。

インドは自己主張と利己主義が徹底している社会である。(必死になって自己主張をするインドの売春女性に学ぶこと

だから、その結果として自己主張に失敗した弱者は社会から蹴落とされて、人間らしく生きることすらも難しい状態になってしまう。弱者が保護されない。どんどん奪われていく。

しかし、経済成長はそれでも貧困層の生活を少しずつ少しずつ向上させる。あと10年も経てば莫大に流れ込む投資資金の恩恵も受ける人たちも増えていくのは間違いない。

今のところ、インドの明るい将来は投資家が思っているほど確実ではないと私は実感している。

莫大な貧困層、非効率な社会、まとまらない民族気質、宗教対立等のインド社会の根本的な欠陥が今のまま残り続けていると、インドが大きく成長して世界経済の巨大な市場になるというストーリーは絵に描いた餅になってしまう。

インドは投資に値する国なのか、そうではないのか。インドは先進国の仲間入りするのかしないのか。インド社会は、うまくいくのかいかないのか……。

インドが先進国になるには、超えなければならないハードルはあまりにも高すぎる。場合によっては、あと10年経ってもインドはまだ何も変わっていないこともあり得る。

インドはエキゾチックで旅するには素晴らしいかもしれない。しかし、私自身は「まだ」この国には投資したくない。インドの非効率さは私たちの常識を越えるものがある。

しかし、予測に反してインドがうまく時代を乗り切る見込みがあるのであれば、この国の将来に少しだけ資金を回してみたいという気持ちもある。

個人的にインドの女性たちには深く世話になったし、忘れられない女性もいる。この国との想い出を切りたくない。

私は東南アジアではタイにほんの少し投資しているのだが、10年前に買った企業の株式を、今も相変わらず保持したまま1株も売っていない。タイにも関わり続けている。

インドもそうやって関わっていきたい。



2014年インド。路地を入れば、どこでもこのような路上生活者の姿が見られる。10年間とまったく何も変わっていなかった。

〓 関連記事