先日、とても悲しい光景を見た。あるドラッグストアに入ろうとすると、入口に立っていた女性店員が私を制して「今はちょっと入らないで下さい」というのである。

閉店時間でもないのにどうしたのだろうかと私がいぶかっていると、女性店員はこのように説明した。

「中で暴れているお客様がおりますので……」

暴れていると聞くと、ヤクザやチンピラが暴れているのかと思うが、店の中に目をやるとそうではなかった。

レジの前で70代くらいだと思われる落ちぶれたような雰囲気のある高齢者が、若い店員2人に両脇を抑えられて立っていた。「万引き?」と尋ねると店員はうなずいた。

店の前には何人かの客が黙って店内を見ていたのだが、やがて自転車に乗った警察官がやってきて店の中に入っていった。

高齢者が商品を万引きして、それを店員に見とがめられて逃げようとして捕まり、暴れ、警察を呼ばれた。そのような光景だ。警察の姿を見て、万引きしたその高齢者が急に萎れて大人しくなっていくのが見ていて分かった。

高齢者の万引き。高齢者の犯罪……。私が見たこの光景は、実は今の日本社会では珍しくなくなっている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

2005年以降、犯罪の現場では何が起きていたのか?


日本で検挙される犯罪者のうち、過去20年で5倍に増えているのは「高齢者」による犯罪だ。日本では高齢者と言えば普通は65歳以上の人たちを指す。

これらの人たちは「オレオレ詐欺」や「訪問詐欺」の犠牲者になることが多く、世間一般では犯罪の被害者になりやすい立場にあるという認識である。

それはそれで間違っていないのだが、その一方で高齢者たちは犯罪の加害者にもなっており、それが過去20年で5倍に増えている。

2013年のデータによると、この年に刑務所に入所した高齢者は2228人であり、これは全体の約10%にもなる人数だ。分かりやすく言うと、刑務所に放り込まれる人の10人に1人は65歳以上の高齢者になっていた。

彼らはいったい何の犯罪を犯しているのか。

それは主に窃盗や暴行なのだが、その中でも最も切実で多いのが窃盗である。窃盗という言い方よりも「万引き」という言い方の方が分かりやすい。

一部の高齢者は、今や万引きの常習犯となっている。特にスーパーでは高齢者による万引きが恒常的に起きており、店の関係者は頭を悩ましている。

窃盗(万引き)に関しては、20歳未満の検挙者は実は1998年以降は一環して減少傾向にある。

1998年頃は窃盗で検挙された人間の50%は20歳未満の人が引き起こしたものだった。ところが現在は24%にまで減少している。若年層による窃盗はかつての半分ほどになった。

それと入れ替わるように毎年一貫して増えているのは、65歳以上の高齢者による窃盗(万引き)なのだ。

これを憂慮した法務省は、平成26年版犯罪白書で「窃盗事犯者と再犯」という項目を立てて、高齢者による窃盗事犯について警鐘を鳴らすところにまで来た。

このままでは極端な少子高齢化で社会が崩壊する


私が目撃したのは、高齢「男性」の万引きだった。

一方、犯罪白書で特に憂慮されているのは、窃盗犯の女子比率が4割から5割で推移していたことだ。平成26年版犯罪白書にはこのような一文がある。

「万引きの検挙人員は、総数では、平成14年までは検挙人員の 4割台から5割台を少年が占めていたが、17年からは検挙人員の4割台から5割台を50歳以上の者が占めており、高齢者の占める割合は、25年は6年の約3.7倍であった。とりわけ女子の検挙人員に占める高齢者の割合は、6年には8.9%であったが、25年は37.8%を占め、6年に比べ約4倍に上昇した」

この文章は「2005年以降、50代以上の高齢者による万引きがどんどん増えている」というのと「女性が検挙される割合が1994年から比べて4倍も増えている」という2点が現在の万引きの特徴であることを示している。

2005年と言えば、若年層が非正規雇用で使い捨てされるのが顕著になって格差問題が大きくクローズアップされていた時代である。つまり、若年層の苦境が大きな話題だった。

しかし犯罪の現場から見ると、若年層よりもむしろ50代以上の年齢層、特に「50代以上の女性」が万引きをしなければならないほど社会的に追い詰められていた。

それが、現在も続いている。

日本では人口における高齢層がどんどん増えている。2015年は総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は26.8%となっているので、4人に1人は高齢者となっている。

この割合は今後さらに拡大していき、そう遠くない将来に3人に1人が高齢者の時代がやって来る。

2024年に団塊の世代がすべて75歳以上となり、社会保障費が大きく膨らみ始める。年金で食べていけないのであれば、彼らは生活保護受給者となり、それは死ぬまで永遠に続く。

2026年には高齢者の5人に1人が認知症患者と化す。状況はより悪化する。にも関わらず、少子化も加速して止まらない。10年以内に日本は、確実に悲惨な人口動態になる。

このままでは日本が極端な少子高齢化で社会崩壊していくのは目に見えている。

「人口は少ない方がいい」と無責任かつ無能な発言をして、破滅的な少子高齢化を放置してきた売国奴たちのツケが、これから全日本人に回るのだ。

年金制度は破綻しないと言われているが、社会が少子高齢化で破綻していくのだから、年金制度だけ破綻しないと考えるのは滑稽だ。

年金では生活できないから、生活保護受給者がうなぎ登りとなって財源を圧迫するようになり、窓口で追い返される人たちが問題になっているのだ。

そんな中で、高齢の単身者も増えており、家族の助けもなく、身よりもいない単身女性が孤立し、経済的にも精神的にも社会から見捨てられたような状況になっている。



一部の高齢者は、今や万引きの常習犯となっている。特にスーパーでは高齢者による万引きが恒常的に起きており、店の関係者は頭を悩ましている。

万引きが見つかっても高齢者が癒される理由とは?


そして、充分な老後資金を準備できなかった高齢者、配偶者に死なれた高齢者、子供や家族にも見捨てられた高齢者が万引きに走っている。

それが犯罪白書の統計にも顕著に表れている。

政府は救済できない。高齢者が増えれば増えるほど財源は圧迫されていくからだ。すでに社会福祉は薄く細かく削減されるようになっている。

財源が危機に陥る2024年以後、政府はなりふり構わず年金や社会福祉を削減する方向に動く。

年金制度は破綻しないと言われているが、プールしている金額が減れば制度は破綻しなくても、もらえる金額は減っていくわけでそれで生活できるかどうかは保障されていない。

さらにインフレが発生していくと、現金の価値が減少するのだから、それもまた事実上年金が削減されたも同然になる。

政府が財源の減少に焦燥を感じて消費税の税率を上げるようなことをすると、ますます消費は減る。

こうした少子高齢化の負のスパイラルの中で、日本社会は深刻なダメージを受け続ける。毎年のように状況が悪化する。

ますます「暮らしにくい」生活になっていくのだが、これを打破するような社会的変化は今は起きていない。(貧しくとも子供が欲しい夫婦は、臆せずに子供を持つべきだ

現在の資本主義のあり方は「弱者切り捨て」なので、高齢者層の困窮はさらに極まっていく。そうした中で、高齢者の一部が万引きにのめり込んでいるのだ。

万引きが発覚して輔導された高齢者は、最初こそ泣いて詫びるのだが、その後も同じスーパーで何度も万引きをする。

万引きして見つからなければそれは自分の利益になる。もし見つかったら、普段は孤独で誰からも相手にされない自分を大勢の人が関わって自分を相手にしてくれる。それで寂しさが癒やされるのだ。

万引きが見つかっても見つからなくても、高齢者は「嬉しい」という気持ちになる構図だ。実は再犯率が多いのも万引き事犯の特徴でもある。

スーパーで商品を万引きする高齢者層の増加は、社会のゆがみでもある。私たちは、これから何度も高齢者の万引きを目撃する確率が高い。

ちなみに万引きを軽く見ている人は多いが、これは「窃盗罪」であり「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」となる。(written by 鈴木傾城)


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万引きして見つからなければそれは自分の利益になる。もし見つかったら、普段は孤独で誰からも相手にされない自分を大勢の人が関わって自分を相手にしてくれる。それで寂しさが癒やされる。



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