2018年3月18日に行われたロシア大統領選挙で、現職のプーチン大統領が他の7人の候補者を圧倒的に引き離して4選を決めている。

この選挙では、例によって選挙不正が大々的に行われたのが監視カメラでも発覚しているが、選挙が無効になることはない。今後もロシアは「プーチン帝国」が続くことになる。

しかし、プーチン大統領は安泰でもロシア国家そのものが安泰であるとは言えない。ロシアは2014年の原油安から大きなダメージを受けて今も立ち直っていない。ロシアのGDP(国内総生産)はアメリカの14分の1である。

今後のロシアが復活できるかどうかは、エネルギー価格が復活するかどうかにかかっている。ロシアは、今も昔も「天然資源依存型経済」である。それを一番よく知っているのがプーチン大統領だ。

ロシアは一度破綻している。その破綻したロシアを立て直せたのは、ひとえにプーチンが大統領になってから運良く石油価格が上昇したからだった。

中東の産油国と同じく、石油価格がロシアという国家の命運を左右するのだ。だから、ウラジーミル・プーチンはいつでもエネルギーを掌握することに意識を集中している。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

共産主義で失敗していったソビエト連邦


「エネルギー至上主義」に到達するまで、共産主義国家としてのロシアはひどい混乱の中にあった国家であった。共産主義は壮大な失敗だった。

現在のロシア(かつてのソビエト連邦)がこの破滅的な共産主義思想を導入したのは1922年だった。

1930年代は全世界が大混乱に陥っていたので、共産主義の欠陥はそれほど目に付かなかった。

第二次世界大戦後しばらくも強大な軍事力がモノを言って、むしろアメリカと対抗するほどの勢力を持ち世界を二分した。

しかし1960年以降、ソ連は徐々に失速していくことになる。それは共産主義という「不自然な思想」が足かせになったからだ。

この頃のソ連を動かしていたのは「計画経済」だ。計画経済とは、要するに「物の値段のすべてを政府が決めていた経済」のことである。

普通、物というのは需要と供給によって日々決まっていく。

そこに各企業・事業主の競争が発生すると、ある店は高かったり、ある店は安かったりする。誰が何にどんな値段をつけてもいいが、選択するのは客である。

だから経営者は自分たちを選んでもらうために、様々なサービスを生み出し、創意工夫がなされ、経済が活性化していく。これが資本主義だ。

計画経済というのはそうではない。値段の決定権は政府にあって、物を売っても利益は国に取られて、国から給料が分配される仕組みである。

だから、必死で売っても、まったく仕事しない人間と給料は同じになる。それが「共産主義」だ。

この「計画経済」の仕組みがうまく働かなかったのは、政府が何もかも決めるのが間に合わなくなったのと、判断が間違っても修正するのが時間がかかったのと、誰も必死に働かなくなったからだ。

何をどれくらい作って供給するかは政府が決める。だから、ある物はいつも過剰だが、ある物は常に不足した。1960年代にはもうロシアは「行列」国家になっていた。1970年代に入ると、その停滞は誰の目にも明らかだった。



1960年以降、ソ連は徐々に失速していくことになった。それは共産主義という「不自然な思想」が足かせになったからだ。

1980年のロシアの大混乱とプーチンの登場


結局、計画経済の考え方は行き詰まり、あちこちで隠しきれないほどの綻びが出てきた。

1980年代にはもはやどうしようもない経済危機が頻発して、ミハイル・ゴルバチョフがペレストロイカを打ち出して経済再建を試みた。経済再建というのは、すなわち計画経済からの脱却である。

しかし、政権内部の内輪揉めもあって、経済危機は一層ひどいものとなっていく。やがて、連邦すら維持することが不可能な事態になっていった。

1991年、ソ連は崩壊した。

壮大な共産主義と計画経済の実験は終了した。計画経済が崩壊したロシアは急激に資本主義へ移行を始めたが、この移行には確固たる「計画」がなかった。

そこに略奪者が横行して資源や権利を盗みとるような状況になっていく。オリガルヒ(新興財閥)たちの時代である。

それがますますロシア経済の混乱を招いて、1998年にロシアは債務不履行(デフォルト)に追い込まれている。

デフォルトの直接原因は1997年のアジア通貨危機(タイ・バーツ危機)だったが、ロシアがそれに巻き込まれて瓦解したのは、輸出の80パーセントを天然資源に頼った経済だったことだった。

その当時、世界ではデフレに見舞われていてロシアの石油や天然ガスは安い値段に甘んじるしかなく、これがロシア経済を疲弊させてしまっていた。

投資家はロシアを見限り、急激に資本が細ったロシアでは政情不安も恒常化した。

「破綻していた計画経済時代のソ連のほうが、今のロシアよりもマシ」と言われるほどの困窮状態になってしまったのが1998年のロシアだったのである。


ミハイル・ゴルバチョフは、ペレストロイカを打ち出して経済再建を試みたのだが、時すでに遅しで、ロシアはますます混迷の度を深めていった。

資源と共に命運が上下する天然資源依存型経済


1999年、ボリス・エリツィン大統領は辞任、そのあとをウラジーミル・プーチンが継いだ。

皮肉なことに、ロシアが破綻したあとに石油価格は上昇をはじめることになり、プーチン政権は市場経済の大鷲に乗っていれば危機を脱することが可能な状態になった。

現在、ロシアが危機を脱したのはプーチン大統領の手腕だと言われているのだが、しかし実際には「石油価格の上昇」がロシアを救った局面が大きい。

逆に言えば、資源価格の低迷がロシアを破綻させたという見方もできる。

そのため、「それまでの石油価格低迷は、アメリカがロシアを破綻させるための陰謀だったのではないか」という考える人も多かった。

ロシアが石油・天然ガス価格と共に命運を上下させる「天然資源依存型経済」であるとするならば、ロシアを生かすか殺すかは資源価格を調整すればよかったのである。

もちろん、天然資源が基本的に供給と需給によって価格が形成されるのだが、原油価格はサウジアラジアが供給を増やすか減らすかを「調整」できるので、価格の誘導は難しいことではない。

石油ショックはOPECが原油の供給を絞ったから起きたことを見てもそれが分かる。

つまり、石油を掌握する覇権国家アメリカは、原油価格を調整することによって潜在敵国をいつでも混乱させることができる能力を有しているということになる。

1945年以後、アメリカとソ連は常に対立構造にあり、覇権を巡って対立する国家だった。アメリカは1970年代に米ソ代理戦争と言われていたベトナム戦争に敗北してしまった。

もうアメリカはロシアに勝てなくなったのか。

いや、ロシアもまた経済的に混乱しており、アメリカよりも国内情勢が悪化していた。そのロシアは資源に依存した経済だった。だから、資源価格を低迷させればロシアは死ぬ。

1980年代後半から、まるでアメリカの願いが天に届いたかのように原油価格は低迷し続けた。そして、ロシアは混乱の中で死んでいった。

「資源価格の低迷はロシアを崩壊させる」という事実をアメリカはしっかり学んだはずだ。



ボリス・エリツィンの時代、ロシアは債務不履行(デフォルト)に追い込まれて、ロシアは地に堕ちた。

ロシアの将来は悪くないとプーチンは読んでいる


現代文明は石油の消費で成り立っている。これほど化石燃料に依存する社会が一気に転換するのは数十年も先の話であり、明日明後日に何か変わるわけではない。

石油は数十年に渡って重要な「戦略物資」であり続ける。

プーチン大統領はエネルギーを押さえている限り、あらゆる問題を抱えつつも、ロシアの将来はそれほど悪くないと判断しているように見える。

だからこそ、ガスプロムもロスネフチも、すべてプーチンは自分の子飼いの部下で経営者を固めている。ドミートリー・メドベージェフ元大統領もガスプロムの会長出身だった。

プーチン大統領が資源をしっかり掌握して、それをコントロールできる限り、世界はロシアを無視できない。これが、ロシアの強みである。

しかし、強みは弱みになる。プーチン大統領は資源価格の高騰によって長期政権を維持できたのだが、そのマジックは2014年のエネルギー価格暴落によって切れてしまっている。

価格低迷が長引けば、それに依存しているロシアはいつまで経っても浮上することができない。それが現在のプーチン帝国に大きな影を落としている。

そもそも2014年からのエネルギー価格の低迷は、需要と供給の問題ではないという説も根強くある。

エネルギー価格の上昇でアメリカの覇権に挑戦するようになり、さらにドル通貨基軸をも脅かす動きを見せるようになったG20の反米国家をまとめて葬り去る「アメリカの策略」であったと言うのだ。

当時のオバマ大統領はロシアとプーチン大統領を激しく嫌っており、反米の総本山となっているロシアを叩き潰したかった。その背景の中で、クリミア戦争の扇動や原油価格の暴落が起きている。

「資源価格の低迷はロシアを崩壊させる」はずだった。

ロシア経済は確かに大ダメージを受けた。ところが、老獪なプーチン大統領は死ななかったのだ。死ぬどころか、2018年3月には4選を決めてさらなる独裁化に入る。

折しもアメリカでは前回の大統領戦でロシアがフェイクニュースで介入したとしてロシア憎悪が渦巻いており、フェイスブックも巻き込まれて窮地に陥っている。

ロシアとアメリカの暗闘は、プーチン大統領の再選によって、より激しいものになるのは確実だ。(written by 鈴木傾城)

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ロシア経済は確かに大ダメージを受けた。ところが、老獪なプーチン大統領は死ななかった。死ぬどころか、2018年3月には4選を決めてさらなる独裁化に入る。

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